やつしろの働くひと #29

やつしろぷれす やつしろの働くひと

い草農家 坂本一真さん

八代市南平和町在住、38才。八代工業高校機械科・九州職業能力開発大学校付属川内職業能力開発短期大学機械システム科卒業後、帰郷。祖父の代から続くい草農家の3代目。現在は米とい草を生産し、天然の国産畳表を作り続けるため日々努力を重ねている。両親、妻、長男、双子の長女、次男、愛犬の8人(1匹)暮らし。

国産い草を守るために就農を決意

八代市南平和町でい草農家を営む坂本一真さん。昭和32年に祖父の博司さんがこの町に入植してい草を作り始め、坂本さんは3代目となります。「元々、農家の跡を継ぐつもりはなかった」という坂本さんですが、鹿児島の短大を卒業する頃、世間は折しも就職氷河期のただなかにあり、八代に帰郷して実家の手伝いをしていました。

数年が経ち、仕事も覚えていきましたが、日本の住環境での“畳離れ”は進み、周りではい草の栽培を辞めていく農家も少なくなかったそうです。い草を取り巻く厳しい環境を目の当たりにしながらも、「畳表の文化を絶やしてはいけない。国産い草を守ろうと腹を括りました」と、34才の時に父の跡を継ぎ、正式に代表経営者となりました。

畳表を製造するスペース。製織機は5台あり、奥様が忙しく立ち回って作業をしています。

い草は、約1年10か月ほどかけて栽培されます。苗の植え付け・苗掘り・株分け・苗床へ植え付け・先刈り・網かけ(倒れて折れるのを防ぐため)・網上げ・追肥…と、多くの工程を経てようやく収穫されます。坂本さんは水の管理を徹底し、さらに有機栽培や減農薬を行い、高品質のい草を育てています。

収穫したい草はすぐに泥染めをして変色を防ぎ、独特の色艶と香りを引き出します。その後乾燥し、長さを7段階に選別してから製織機にかけ、畳表(ござ)が出来上がります。

そして最後に坂本さんはござを一枚一枚丁寧に確認し、ほつれたり飛び出たりしているい草を補修する仕上げ作業をします。「非常に手間のかかる作業ですが、品質にかかわる重要な工程なので、絶対に手はに来ません」。そうして仕上がった畳表は織り目がとても美しく、耐久性に優れたものとなるのです。

素人目にはわからないほど小さなほつれや不揃いの部分を見逃さずに、専用の仕上げ包丁で丁寧に補修。熟練した指捌きです。

国産の天然い草の良さを周知する

ここ数年、低品質の中国産い草や、天然い草よりも高価な『和紙畳』の普及により、国内のい草農家は厳しい経営状況を強いられています。「い草の耐久性は畳の経年変化に現れます。粗悪品は数年で退色するのに対し、天然い草だとはるかに長持ちする。消費者の方々が畳を新調したり、家を新築する際に正しい知識で選んでくれたら」と、切実な想いを語ってくれました。

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