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【祭祀主宰者】

 今回は、以下の事例をもとに、祭祀主宰者についてお話します。

 【商売をやっていた父は、それを引き継がせるため、財産の全てを長男に残す内容の遺言を残して亡くなった。他方、墓の管理については、父の生前、口頭で長女に任せると言っていた。ところが、父の死後、長男は、自分が全ての財産を引き受けたのだから、墓の管理も自分がやると言い出した。】

 お墓や位牌なども財産である以上、長男がすべての財産を相続しているのだから、長男の言い分が正しいとも思えます。しかし、民法には、お墓の権利に関しては、相続財産とは別に承継方法が定められています。

すなわち、民法896条は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と定めているのに対し、民法897条は、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」と定めています。

 「系譜」とは家系図のこと、「祭具」とは、仏壇・位牌等のこと、「墳墓」とは、お墓のことをいい、これらを承継したもののことを、「祭祀主宰者」といいます。お墓の管理は、祭祀主宰者が行うことになるのです。

 そして、祭祀主宰者は、「慣習に従って」承継されるのが原則ですが、亡くなった人が祭祀主宰者を指定していたような場合には、その人が祭祀主宰者となるのです。

 もっとも、冒頭の事例では、父は、祭祀主宰者を長女とすることを、口頭で長女に伝えたのみで、遺言などに明記していたわけではありません。このような場合には、父が祭祀主宰者を長女とすると言っていたと、証明することができないかもしれません。ある裁判例によれば、指定の方法は必ずしも明示的になされる必要はなく、被相続人が生前にその全財産を贈与して家業を継がせた場合に、祭祀主宰者を黙示的に指定したものと認めた例があります。つまり、冒頭の事例で、いくら長女が「私がお墓の管理を任された。」と言っても、それを証明できなければ、長男の言い分が認められてしまうかもしれません。

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 このように、後々の紛争を避けるためにも、祭祀主宰者を誰にするのか、遺言などで明示的に指定しておくことが望ましいといえるでしょう。

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監修/月出・長嶺法律事務所 弁護士 立山 晴大先生

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