やつしろ法律相談

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 今回は「法律相談」というタイトルからは少し外れることを先にお断りします。

 皆さんも小中学校で日本国憲法の三大原則を習ったと思いますが覚えているでしょうか。①国民主権、②基本的人権の尊重、③平和主義です。では、この三つには何か関係性があるのでしょうか。三つがそれぞれ並列的に存在するだけなのか、三つに相互関係があるのかという問いです。これには様々な考え方があります(そもそも①②③を三大原則と考えない見解もあると思います。)が、おそらく今でも通説的な考え方になるのは、②の基本的人権の尊重が憲法の最終目的であり、①の国民主権は②を実現するための手段で、③の平和主義は②を実現する前提であるというものです。つまり、日本国憲法は、国民の基本的人権を守るための基本法だということになります。そして、全ての法律は憲法に違反することは許されませんので、法律を扱う立場にある我々弁護士や司法関係者は、常に憲法の目的である「基本的人権の尊重」を意識しておく必要があります。

 なぜこのようなことを書いているかというと、毎日の仕事に追われているうちに、私の中の人権意識が薄れてはいないかと思わされることがあったからです。

 先日、車を運転しながら某ラジオ番組(某弁護士がパーソナリティをしている番組)を聞いていると、次のような問題提起がされていました。「芸能人がコロナに感染すると、その所属事務所は、おそらく本人の同意を得ないまま、『うちの事務所に所属する○○がコロナの陽性と診断されました』と発表する。これは重大なプライバシー侵害ではないか」というのです。私は、そのような芸能ニュースを毎日のようにメディアで見聞きしていながら、この弁護士のような問題意識を持たずにスルーしてしまっていたことに気付いたのです。

 人の病歴はプライバシー情報の中核をなすものと考えられていますし、発表されることで感染した本人のほか、その家族の生活などにも影響が出ることも考えられますので、権利侵害や不利益の程度は大きいといえます。また、感染拡大の防止などの目的であれば直接的な接触がある人に伝えればよいし、仕事を休むことで影響を受ける人達に対しても個別に伝えればよいわけですから、芸能事務所が本人の同意を得ないまま、メディアを通じて大々的に発表する必要はありません。芸能人だから病歴を公表されても構わない、ということにはならないでしょう。したがって、感染の事実を本人の同意なくむやみに外部に公表することは、その弁護士が指摘するように、プライバシー権の侵害に当たる可能性があります。

 今回は、こうした人権意識を失ってしまわないように、自戒の意味を込めてこの記事を書きました。

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監修/高橋法律事務所 弁護士 高橋知寛先生

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